第2回 この著作権は誰のもの?
仕事で作った著作物
講師:那住史郎 (これまでの記事)
今年も日本人のノーベル賞受賞者が誕生しました。こういうニュースは何となくお目出度い気分になり嬉しくなりますね~。さて報道でも多く話題になっていましたが、今回ノーベル物理学賞を受賞した3人のうちの一人、中村修二先生はかつて、「発明の対価」を巡る裁判で話題になりました。
さて中村先生のように青色発光ダイオードを「発明」した場合、現在の法律では「発明者」は、「自然人」つまり「人」にしか認められておらず、「会社」などの「法人」はなることができません。故に、「発明」を「会社の仕事」で行った場合でも、自動的に「会社のモノ」になるわけではないのです。
では、一方で「著作権」の場合、「仕事で作った著作物」はどのような扱いになるのでしょうか。発明とは扱いが異なります。
結論から言いましょう。原則は「会社のモノ」になります。
著作権法第15条には「職務上作成する著作物の著作者」についての規定があります。この条文では
1) 会社などの「法人」もしくはその「使用者(=その会社で働いている人)」の企画に基づくものである。
2) その会社などの業務に従事する人が創作したものである。
3) その会社の仕事として作成される。
4) その会社の名義で発表される。
5) 契約や会社の規則などで、特に取り決めが無い場合
以上5つの要件を満たしていれば、会社の仕事で作った作品は、自動的に会社に著作権が帰属することとされています。
デザイナーさんやイラストレーターさん、ライターさんなど皆さん食っていくためにいろいろアルバイトをしている方もいらっしゃるのでは。しかし例えアルバイトであったとしても、勤務先で仕事として制作したモノは全て会社に著作権が帰属することになってしまいます。渾身の一作を制作したとしても、前述の5条件が満たされていれば、それは作家・クリエイターのモノではなく、会社に著作権が帰属することになってしまいます。さらに注意が必要なのは明確な雇用関係がなくても、会社の著作権と判断されてしまう場合があります。
これは「RGBアドベンチャー事件」と言われる平成15年4月11日に最高裁判所で下された判決があります。
この事件では中国からアニメの技術を勉強する為に、観光ビザで来日した留学生が、アニメ制作会社の従業員住宅に住み込みで働き、給料をもらいながら、キャラクターのデザインを行っていました。ただし留学生とアニメ制作会社の間には明確な雇用関係はありませんでした。留学生は、著作権は自分にあるとして頒布等の差止めと損害賠償を請求しましたが、最高裁判所は
<<『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。」>>
と判断したのです。つまり明確な雇用関係がなくても、給料が支払われていたなどの事情があれば、「職務著作」であると判断し、会社に著作権が帰属すると、裁判所は判断したのです。
もし作家やクリエイターの方が、職務でキャラクターデザインなど、何かを創作した場合はどうしたらいいのでしょうか。「職務著作」と認められるためには前述の5条件を満たす必要があります。つまり一つでも要件が欠ければ、職務著作にはなりません。例えば5)に記したように「取り決め」があれば、別の扱いとなってきます。
その著作権を自分のものとしたいと考えた場合は、事前に会社と取り決めをしておくことが必要となってきます。
===本日の関連条文
第十五条1項 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
★ 本日の結論→
「会社の仕事で作った著作物の著作権は、原則、会社のモノ」
行政書士 那住史郎
那住史郎(なずみ・しろう) 行政書士。神奈川県行政書士会所属、那住行政書士事務所代表。法政大学文学部日本文学科卒業。2002年より民間著作権エージェントにおいて著作権業務、作家・クリエイターの支援業務に携わる。現在は、著作権関連の業務を中心に、作家・クリエイターの創作活動を法務的側面から支援する「作家の法務パートナー」として活動している。
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