第10回 著作権の保護期間が50年から70年に
講師:那住史郎 (これまでの記事)
著作権の保護巡るルールが大きく変わろうとしています。10月5日、日本やアメリカなど12カ国は、環対太平洋経済連携協定(TPP)に関する交渉について大筋で合意したことを、各国大臣による交渉が行われていたアメリカ・アトランタで発表しました。
本協定は参加12カ国における、工業製品や農作物などの貿易に関する協定の他に、知的財産や投資、サービスなどのルールに関しても統一した基準を設定。この中で著作権についても、各国において異なる保護期間や、侵害対策のルールについて統一を図るべく協議が行われていました。
日本における著作権保護期間は、自然人(人・個人)については現行著作権法が施行された1971年以降、原則として死後50年間保護されるということになっています。
1990年代に入り、欧米各国が保護期間を死後70年に延長すると、日本でも1997年に日本文藝家協会が延長要望書を政府に提出したのを皮切りに、2000年代には延長に賛成・反対それぞれの立場から様々な発言が為され活発な議論が繰り広げられました。
08年文化庁は、文化審議会に設置された委員会において延長を見送る結論を出し、現在まで保護期間50年のままで、延長に関する法改正は行われずにきました。
しかし今回、TPP交渉においては、日本・カナダ・マレーシアなど7カ国が、現行50年としている一方で、アメリカやオーストラリアなど現行70年としている国々が、強く70年以上とするように主張していたようで、発表によると結局70年で合意がまとまりました。
著作権の保護期間が延長された場合、より長期間保護されることで、著作権収入が増加することへの期待や、欧米各国と同一ルールになることで、各国間で統一的な保護が図られることが期待されます。一方、保護期間が長期化することで、小説の舞台化などの二次創作に制限がかかることや、遺族が不明になり権利処理が難しくなることなどを懸念する声も上がっています。
なお法改正前に死後50 年が経過し、著作権保護期間が終了した著作者については、法改正後に著作権が復活する可能性は低いと考えられています。
今回の合意により、すぐに保護期間の延長が行われるというわけではありません。新聞各紙等の報道を総合すると、まず各国間での正式な条約文書への署名は2016年1月ごろになるのではないかと言われています。
また正式に条約が発効するためには国会での条約の承認が必要で、著作権法など国内における各法律の改正も必要となります。
そのため実際に保護期間の延長等が行われるのは、早くとも2017 年以降になるのではと予想されます。
今回のTPP交渉は、交渉内容が公表されずにここまできました。現時点でも「合意」の概要が発表されているだけで、詳細までは発表されていません。また前回本欄で紹介した、「著作権侵害の非親告罪」化についても、「故意による商業的規模の著作権侵害について」と限定しさらに「市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない」という但し書きがついた上で合意事項として発表されています。
このような合意がはたして、日本国の国内法としてどのように整備されるのか、また合意内容の詳細が今後明らかになっていくなかで、どのように議論されていくのか、注目していかなくてはなりません。
おそらくテレビのニュースなどでは、自動車等の工業製品や、農作物等について話題が、多く取り上げられ、なかなか著作権に関する議論は報じられないことと思います。しかし作家・クリエイターの方々にとっては、大事な作品を守るための、大切な権利です。本欄では引き続き、TPPをめぐる著作権等の動きに注目して、皆様にお伝えしていきたいと思います。
★ 本日の結論→「ここからは“どのように”著作権法が合意に合わせ整備されるか注目」
行政書士 那住史郎
那住史郎(なずみ・しろう) 行政書士。神奈川県行政書士会所属、那住行政書士事務所代表。法政大学文学部日本文学科卒業。2002年より民間著作権エージェントにおいて著作権業務、作家・クリエイターの支援業務に携わる。現在は、著作権関連の業務を中心に、作家・クリエイターの創作活動を法務的側面から支援する「作家の法務パートナー」として活動している。
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